とろける森のバターとアボカドプリンの冒険記・簡単レシピ

時代や文化を越えてスイーツになるまでの話

おいしいアボカドプリンを食べたかっただけなんです。「ちょっと贅沢しちゃおう!」とその日マーケットで手にしたアボカドは、いつもと違う特別なシールが貼られていました。ぽってりとした触り心地、手に持つだけでなんだか上機嫌になれるような重みがありました。プライスもちょっと特別だったけどこれなら間違いなくおいしいアボカドプリンができるはず。そう思い込むには充分な存在感でした。

ですが最高においしいアボカドプリンを作るには、アボカドの完熟を逃すわけにはいきません。すぐにでも作って食べたいところをぐっと我慢、アボカドが完熟するのをじっくり待つことにしたのです。熟した”とろける森のバター”この有名な褒め言葉を持つアボカドなら、きっと驚くほど滑らかなプリンができるはず。

1週間待ちました。「そろそろ食べ頃かな?」と半分に切ったアボカドは・・まだ青かった。切る前に少し軽く押してみれば分かりそうなものなのに、食べたい気持ちが先走ってしまったんです。ナイフを半回りほどさせてから「あれ?やっぱり硬いかも・・」と気がつきました。

それでも「いやいや気のせいかも?」と誘惑に負けてそのままナイフを一周させてからクイっとひねって開けてみて「うん、まだだね」と、何事もなかったようにナイフを静かに置いてアボカドをそっと閉じました。それから人知れず失敗を繰り返しながらようやく今、目の前にある美味しいアボカドプリンを味わっています。

アボカドの魅力を見つける旅に出る

アボカドプリンをスプーンですくいながら、ふと思います。この濃厚でコクのある味わいの中には何が詰まっているのだろうか。青い香りのする果実がどうしてスイーツにまで姿を変えたのか。その考えはまるで小さな冒険のようにソファの上でわたしを遠くへ連れ出します。

アボカドプリンを食べながら、みなさんも「アボカドって追熟するの?」 と思ったり、アボカドプリンではなくてもアボカドを食べながら「アボカドって何だろう?」と思ったことはありませんか? 

今日はアボカドを追熟させる小さな魔法と、その魔法にかかった完熟アボカドで作るアボカドプリンのレシピを探す「アボカドがくれるちょっとした感動を見つける旅」おいしいアボカドのプリンを作る冒険へと一緒に出かけてみましょう。

古代、アボカドの始まり

はるか昔、マヤ文明やアステカ文明の時代。メキシコ南部の緑豊かな土地やアンデス山脈の高地で、奇跡の果実が生まれました。木にぶら下がる緑色の洋なし型の果実は「ahuacatl:アワカトル」と呼ばれ、人々に活力と豊かな味わいを与えてくれる大地の恵みとして、まるで神様からの贈り物のように大切にされていたそうです。

新世界、アボカドの冒険

そして時は流れ、冒険心にあふれた探検者たちが新大陸を発見した16世紀頃。アボカドも静かに彼らの船に乗り込みます。最初に着いたスペインで「アグアカテ」と呼ばれたその果実はヨーロッパへと広がり、やがてアメリカのカリフォルニア州を中心に根を張り、19世紀頃には「アボカド」としてアジアへと恵みが運ばれます。

アボカド日本にたどり着く

大正時代の日本にたどり着いたアボカドですが、昭和時代の終わりになってからようやくその存在が少しづつ知られるようになり、今のようにスーパマーケットに身近に並ぶようになったのは近年のこと。

そんなアボカドを買う時は、皮に傷や凹みがなく、手に持った時に感じるしっかりとした重みを頼りにしています。思うようなアボカドに出会えた時は「これも縁」巡り合わせなのだとひとりで盛り上がってしまいます。

アボカドの恵みがやって来た:君は未熟か完熟か

さて、スーパーマーケットからキッチンにやってきたアボカド。最初は鮮やかな緑色で、握ってみてもカチカチ。そのまま数日間、常温で様子を見ながら「今日はどう?」とそわそわ気にしては、やっと皮が黒っぽい焦げ茶色に変わってくる頃、ようやく「これはきっと食べ頃!」と見定める瞬間が訪れます。丁寧にヘタの辺りを押してみると、ほんの少しだけ沈む…この瞬間がたまらなく好きです。

でも、見定めるタイミングを逃して皮が黒くなってしまった時もあります。そっと握ってみると柔らかすぎる。そして取れたヘタの中が茶色くなっていたら・・食べるタイミングも逃していた。なんてこともあるので、それからは目に入るように置いています。

アボカドに追熟の魔法をかける:エチレンガスを閉じ込める

早くおいしいアボカドが食べたい。そんな時は未熟なアボカドを完熟アボカドへと追熟させる小さな魔法をかけるなら、紙袋にリンゴやバナナと一緒に入れておくのがマイセオリー。アボカドが放つエチレンガスと仲間たちの協力で、ただ待つだけの時間が一層楽しみに感じます。

ほかにも冷蔵庫の上に置いておくと熟しやすいとか、切る前に軽く押して弾力を感じればOKとか、自分なりの小技も増えてきました。逆に早まって未熟なうちに切ってしまったときのあの絶望感!そっとラップで包んで、次こそは失敗しないって誓うものです。

そうして待つこと数日間。茶色くなったヘタに少し隙間ができて、軽くアボカドを押すと少しへこみました。食べ頃がやって来たようです。

追熟魔法をかけ損ねた失敗

さてここで、勇足で失敗したわたしの話を少しだけ。まずエチレンガスを閉じ込める魔法をかける前に、わたしは冷蔵庫でアボカドを保存していたのです。「暖かい冷蔵庫の上」ではなく「寒い冷蔵庫の中」でアボカドはお休みしていたんですね。どうりで熟れていないわけです。

そして、未熟なまま切ってしまったアボカドをそっと閉じてからラップでぴったりと包み「これで切った事実をなかったことに・・」はなりませんでした。カットしたアボカドはレモン汁をかけておくと酸化は防いでくれますが、追熟の魔法は効きませんでした。

その失敗から学べることもありました。それは急ぎすぎず温かい所で待つことの大切さと、アボカドが熟れるのを遅らせたいときは冷蔵庫の中で保存するとよい、ということ。でも一番はやっぱり「もしかして熟れているかも」と希望を胸に、硬くて緑色のアボカドを切らない!ですよね。

さて、気を取り直して新たにアボカドを迎えたわたしは、無事食べ頃のサインを迎えることができました。

アボカド、プリンになる

アボカドをプリンにしてみようと思いついた最初の人はどんな気持ちで挑戦したのでしょう。果実といえどもサラダやタコスで食べることが多いアボカドをまさかスイーツに仕立てるなんて想像もできませんでした。でもそのおかげで新感覚の美味しさを知ることができました。

アボカドプリンの作り方はとても簡単で材料もシンプルです。材料をミキサーやブレンダーにすべて入れて滑らかになるまで攪拌するだけなんです。

  • 完熟のアボカド(中サイズ):1個
  • メープルシロップ:大さじ1
  • きび砂糖:大さじ1
  • 無糖アーモンドミルク:100ml
  • バニラエッセンス:少々

そのまま作りたてを食べるとアボカドの風味とまろやかさをダイレクトに感じられるし、冷蔵庫で冷やしてから食べるとすっきり感のある口触りでこれもまた良しです。

アボカド好き、プリン好き、ならきっと口に合う美味しさだと思います。ちょっとしたアレンジで抹茶粉やココアを混ぜてみるのも美味しそう。

きび砂糖は、奄美諸島のさとうきびで作られる「素焚糖(すだきとう)」を使っています。、粒が砂浜のようにきめ細かくて口あたりが柔らかく、優しくて素朴な甘みが魅力的なんです。毎日の料理やスイーツ、パン作りもすべて素焚糖。

無糖のアーモンドミルクは、マルサンが作る「Amazonブランド:アーモンドミルク砂糖不使用」を使っています。野菜スムージーにも使いたい私はクセのないさっぱりとしたこちらを見つけて常備しています。

ブレンダーは、ブラウン社のハンドブレンダーを使いました。ブレンダーは、ブラウンのハンドブレンダーを使いました。驚くほど滑らかでクリーミィに攪拌できるんです。生クリームやディップ、マヨネーズ作りなどに◎。料理好きの人にはもちろん、忙しい人や下ごしらえが苦手な人にもおすすめのキッチンアイテムです。

付属のプラスチック計量カップがあるのですがガラス製の縦長タイプで攪拌しています。

アボカドプリンをとことん味わう

アボカドプリンの楽しみ方もたくさんあるんです。フルーツスムージーに混ぜたりサンドイッチに挟んだり、バゲットやカンパーニュにのせてオーブンで軽く焼くブルスケッタ。クラッカーにトッピングしてカナッペに。ディップとして野菜スティックやフライドポテトにつけるなど。自分でもびっくりするくらいバリエーションが広がっていきます。アレルギーや食事制限があっても安心して楽しめる、そんな柔軟さも嬉しいところ。

森のバターと呼ばれる秘密

「森のバター」という言葉を聞いたとき、どんなイメージが浮かびますか?わたしは、緑豊かな森の木漏れ日の下ですくすくと育つ、まるでバターのようにクリーミィな食べもの。自然がそっと差し出した贈りものをイメージします。

森のバターの異名も持つアボカド。その滑らかな質感と濃厚なコク、そして果物には珍しいほどのリッチな脂質は、スプーンの先からじんわりと伝わってきます。食べ終えたあとも口の中に緑とバターの余韻が残り、森の中を歩いたような気持ちにさせてくれます。

アボカドの旅を楽しむ

「アボカドって追熟するの?」という素朴な疑問から始まったアボカドの世界への旅。 ”アボカドの冒険”を追うように、わたしも短い冒険をしているような時間でした。

アボカドについて考え、作って、食べていると、遠いメキシコの森を思い浮かべたり思いがけない発見があったり、日常がほんのり豊かになる気がします。今日のひとくちが、アボカドの新たな冒険になれば素敵ですね。これからも、気ままにアボカドの世界を旅していきたいと思います。次にどんな発見が待っているか楽しみです。